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横浜地方裁判所 昭和55年(ワ)997号 判決

原告

岩滝奈美

被告

有限会社大山建設

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金一七九万九三一三円及びこれに対する昭和五三年五月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの負担とし、その一を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し金一五四三万三二六円及び右金員に対する昭和五三年五月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和五二年一月九日午前一一時一五分

(二) 場所 相模原市若松二丁目一四番二号先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(相模一一さ四九一五)

(四) 右運転者 被告 板垣庄市

(五) 被害者 原告 岩滝奈美

(昭和四九年一〇月三一日生)

(六) 態様 被告板垣が加害車を運転して本件事故現場道路を進行中、自己の進行帯に駐車車両があつたためセンターラインを超えて進行し、歩行中の原告に衝突して傷害を負わせたものである。

2  責任原因

(一) 被告会社は加害車を自己の業務に使用中に本件事故が発生したものであるから、自賠法第三条の運行供用者責任を負う。

(二) 被告板垣は、本件事故地点の道路は住宅街にあるから、老人・子供の歩行が考えられ、且つ道路の幅員も狭いので減速のうえ十分安全に注意して進行すべき義務あるところ、折から進路に駐車車両があつたため、センターラインを超えて右側を進行しようとし、人の歩行に注意せず漫然進行したため、歩行中の原告の発見が遅れて本件事故が発生したものであるから、民法第七〇九条の責任を負う。

3  損害

(一) 治療費 金一四五万九七三六円

原告は本件事故により頭部打撲、脳震盪、右大腿・膝轢圧挫創、四頭筋断裂の傷害をうけ次のような治療をなした。

(1) 相模外科病院

昭和五二年一月九日から同年二月二八日まで五一日間入院。その間の治療費金一一一万五三五〇円。

昭和五二年三月一日から同年四月一四日まで四五日間入院。同年四月一五日から同年九月二八日までの間に六〇日通院。その間治療に健康保険を使用し、その患者負担分は金七万六一八〇円。

(2) 北里大学病院

昭和五二年四月一一日から同年一一月七日まで通院、同年一一月八日から同年一二月三日まで入院、同年一二月一七日から昭和五三年五月二三日まで通院。治療に健康保険を使用し、その患者負担分は金二五万五二七一円。

昭和五三年五月二四日から昭和五四年九月二五日まで通院。治療に健康保険を使用し、その患者負担分は金一万二九三五円。

(二) 入院雑費 金七万三二〇〇円

入院一二二日で一日当り金六〇〇円の割合。

(三) 付添看護料 金六〇万円

幼児の為通院期間も付添を要したが、控え目に二〇〇日間を請求する。一日当り金三〇〇〇円の割合。

(四) 通院交通費 金一〇万円

(五) 入通院慰藉料 金一六三万九〇〇〇円

右入通院に照らし少なくとも右金員をもつて慰藉するに相当とする。

(六) 後遺症慰藉料 金一三〇〇万円

原告は、右大腿部、膝関節部に一〇センチメートルの線状、幅五・五センチメートル、長さ一五センチメートルの瘢痕、幅一・五センチメートル、長さ四センチメートルの瘢痕、右臀部に幅一〇センチメートル、長さ一〇センチメートルの瘢痕の後遺症を残した。その固定日は昭和五三年五月二三日である。

原告は幼ない女子であり、右の後遺症は外貌の著しい醜状と評価されるもので、それ自体の慰藉料としては金八〇〇万円を相当とするが、更に将来の就職或いは結婚に重大な影響を及ぼすものであるので、これに対する損害として金五〇〇万円、合計金一三〇〇万円を相当とする。

4  損害の填補

被告会社は、昭和五二年五月一九日付添費、オムツ、布団、貸ベツト代の一部として金二五万八〇円を支払つた。

5  結論

よつて原告は被告両名に対し損害賠償として、各自金一五四三万三二六円及び右金員に対する不法行為後の昭和五三年五月二三日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中(一)は認め、(二)は否認。

3  同3の(一)の事実のうち、相模外科病院、北里大学病院に入院・通院した事実は認めるが、入通院日数及び治療費等の金額ならびに被害部位・程度は不知。

同3の(二)ないし(六)の事実は否認する。

4  同4の事実は認める。

5  同5の主張は争う。

三  抗弁

1  自賠法第三条但書による免責

(一) 本件交通事故は、被告板垣が加害車を運転して本件事故現場付近の道路を走行中、進路左側に普通乗用自動車が駐車していたので、これを避けるため徐行しながら道路右側の住宅寄りを進行中、突然民家の門を開けて原告が飛び出してきて、原告から加害車に衝突したものである。被告板垣としては減速して十分な注意を払つて運行していたものであるが、民家のブロツク塀の高さが一・五メートルもあり、事前に原告を発見することは全く困難であつた。また、被告板垣としては原告を発見してすぐに急ブレーキをかけたのであるが、あまりにも突然原告が飛び出してきたので衝突を防ぐことができなかつたものである。

従つて本件交通事故は全く不可抗力の事故というべきであり被告板垣は無過失である。

(二) 本件事故は、原告が突然道路へ飛び出し、加害車に衝突したもので、原告の一方的過失である。

(三) 加害車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

2  過失相殺

仮りに被告らに責任があるとしても、前記のとおり原告にも重大な過失があり、原告と被告らの過失の割合は九対一と認めるのが相当である。

3  弁済

(一) 自賠責保険からの支払 金一〇〇万円

(二) 社会保険からの支払 金三八万二五二二円

内訳 (1) 相模外科病院関係 金一六万八三一五円

(2) 北里大学病院関係 金二一万四二〇七円

(三) 被告会社から原告に対する支払 金三一万九九四〇円

内訳 (1) 付添料、オムツ、フトン代 金二五万八〇円

(2) 治療費原告負担分 金六万九八六〇円

(四) 以上合計 金一七〇万二四六二円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、(一)、(二)は否認、(三)は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実中(三)の(2)については不知。その余は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

1  請求原因2の(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない乙第一号証、証人井上文孝の証言、被告板垣庄市本人尋問の結果の一部によると、次の事実が認められる。

被告板垣は加害車(運転席は車の右側最前部にあり、長さ五・六三メートル、幅二・一〇メートル、高さ二・三五メートル)に残土を積んで、神奈川県相模原市若松二丁目一四番二号先路上(道路巾五・四メートル、両端に〇・二メートルの側溝があり、歩道はない。)を大沼方面から文京方面へ進行中、進行方向約一一・五メートル先に駐車中の普通乗用自動車を発見したが、同車の脇を通り抜けられると判断して、速度を落とし、時速約一五キロメートルの速度で、中央よりに進行し、駐車車両の手前約六メートルまで近づいたところ、右側前方約三メートル先の民家の門の、高さ約一・五メートルのブロツク塀でかこまれた内側から原告が加害車の進路に出て来るのを発見し、ただちにブレーキをかけたが間に合わず、発見した地点から約二・六メートル先で加害車の右前部を原告に衝突させ、原告はそのため転倒し、右足が加害車の右前輪と路面にはさまれる形になり、加害車は衝突地点から約〇・三メートルの所で停止した。

路面には加害車の停止位置から大沼方面に、前後輪(後輪は四輪)とも約一・五メートルのスリツプ痕が斜めに道路の中央線をまたぐようについており、右前輪のスリツプ痕の先端と道路の側端(加害車の右側)が約一・二メートル、左後輪のスリツプ痕の後端と道路の側端(加害車の左側)が約一・二メートルの位置にあつた。原告が出た門から衝突地点までの距離は道路に対して斜めで、その直線距離は約二メートルである。

事故地点の道路は中央線の表示があり、直線で見通しはよく、アスフアルト舗装され乾燥していた。付近は住宅地で、車両の通行は少い。

乙第三号証の一〇及び原告法定代理人岩滝憲二本人尋問の結果のうちには、加害車は駐車中の車と並行した位置で停止したとの部分があるが、前掲証拠に照らし(特に加害車が停止した時の左後輪のスリツプ痕の位置が、加害車の進行方向左側の道路の端から約一・二メートルしかないことは、その間に駐車車両が入る余裕がない。)採用できず、また被告板垣庄市本人尋問の結果のうち、本件事故地点にさしかかつた時の加害車の速度は、時速一五キロメートル程度であつたとの部分があるが、前認定のスリツプ痕の長さからみてにわかに採用できず、他に右認定を妨げる証拠はない。

右認定の事実によると、被告板垣は人家の密集した狭い道路を、しかも駐車車両を超すため反対車線に進入し、見通しの悪い人家の門の直前を通行する形となるので、可能な限り速度を落し、前方及び右方への注視を怠らないようすべき注意義務があるのに、前認定の時速一五キロメートル程度に減速しただけで、右方に対する注意を十分払わなかつたものと推認(被告板垣が原告を発見したのは、衝突地点から約三メートルの地点であるが、仮りに原告が小走りに出て来たとしても、二才の幼児が約三メートルを通るに要する時間から推して、もう少し早めに原告を発見し得たものと考えられる。)。

しかし一方被害者側にも、原告法定代理人らの原告の監護が十分でないため、見通しの悪い塀のかげから車道に出て加害車に衝突したものであつて、その過失は否定し得ない。

そして前認定の諸般の事情によると、被告板垣の過失が七割、被害者側の過失が三割とするのが相当である。

従つて被告板垣は、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

3  被告会社は、自賠法三条但書の免責を主張するけれども、前認定のとおり、加害車の運転手である被告板垣に過失がある以上、その余の点について判断するまでもなく右主張は理由がない。

従つて、被告会社は自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  治療費 金一四五万九七三六円

原本の存在、成立に争いのない甲第一号証の一の(イ)(ロ)、二の(イ)(ロ)(ハ)、成立に争いのない第二号証の一の(イ)(ロ)(ハ)、二の(イ)(ロ)、第四号証の一ないし三によると、原告は本件事故により、頭部打撲、脳震盪症、右大腿・膝轢圧挫創、四頭筋断裂の傷害を受け、次のとおり入・通院治療を受け、合計金一四五万九七三六円の治療費を要した。

(一)  相模外科病院

昭和五一年一月九日から同年二月二八日まで五一日入院

治療費 金一一一万五三五〇円

昭和五二年三月一日から同年四月一四日まで四五日入院

同年四月一五日から同年九月二八日まで通院(実日数六〇日)

健康保険患者負担分 金七万六一八〇円

(二)  北里大学病院

昭和五二年四月一一日から昭和五三年五月二三日まで通院(実日数二三日)

その間昭和五二年一一月八日から同年一二月三日まで二六日入院

健康保険患者負担分 金二五万五二七一円

同年五月二四日から昭和五四年九月二五日まで通院(実日数八日)

健康保険患者負担分 金一万二九三五円

2  入院雑費 金七万三二〇〇円

原告は、前認定のとおり、一二二日入院し、その間一日金六〇〇円の割合による雑費を要したものと認める。

3  付添看護料 金四五万七〇〇〇円

原告は、本件事故当時二歳余の幼児であつたから、その入・通院に母の付添を要するものと認められ、入院付添料は一日金三〇〇〇円の割合による一二二日分(計金三六万六〇〇〇円)、通院付添料は一日金一〇〇〇円の割合による九一日分(計金九万一〇〇〇円)を相当と認める。

4  通院交通費 金一万二六〇円

原告法定代理人岩滝嘉津子本人尋問の結果によると、原告が北里大学病院に入・通院治療を受けた際、原告の母がその度自宅から右病院に通い、一日往復金一八〇円のバス代を要したので、その五七日分計金一万二六〇円の交通費を要したことが認められる。

5  慰藉料

原告は、前認定のとおり、入・通院治療を受け、前掲甲第四号証の一ないし三、成立に争いのない甲第三号証によると、昭和五三年五月二三日症状は固定したが、右大腿部の上部から膝下にかけて、長さ一〇センチメートルの線状瘢痕、その下に幅五・五センチメートル、長さ一五センチメートルの瘢痕、その下に幅一・五センチメートル、長さ四センチメートルの瘢痕、右患部に皮膚移植したため右臀部に幅、長さともに一〇センチメートルの瘢痕が生じ、特に右足の瘢痕は通常の露出部にかかり、その瘢痕は目立つものであつて、右臀部の瘢痕とも併せ考えると、女子の外貌に醜状を残す場合にも比肩すべきものと認めるのを相当とするので、原告の後遺症は自賠法施行令別表後遺障害等級一二級に当ると認める。

そして、原告の入・通院ならびに後遺症慰藉料は、金三〇〇万円が相当と認める。

四  過失相殺

以上のとおり、原告の損害は合計金五〇〇万二五三六円のところ、原告にも前認定のとおり三割の過失があつたから、これを相殺すると金三五〇万一七七五円となる。

五  填補

抗弁3の弁済の事実のうち、3の(三)の(2)の事実を除くその余の事実は当事者間に争いがなく、原告法定代理人岩滝嘉津子本人尋問の結果によると、原告は抗弁3の(三)の(2)の金六万九八六〇円を受領した事実が認められる。

そこで前記損害金三五〇万一七七五円から填補された金一七〇万二四六二円を控除すると、金一七九万九三一三円となる。

六  結論

以上のとおり、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、金一七九万九三一三円及びこれに対する不法行為後の昭和五三年五月二三日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので正当として認容し、その余は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

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